World Tour 1981

インドといえばシタール
シタールといえばタブラ
ちょっと習ってみよーかな

 その5…タブラのレッスン

なぜウッタム氏が笑っていたのか解った。音がでない。音を出すだけで、日本の鼓なみの難しさなのだ。ウッタム先生は、まず、左右の指のポーズから厳格に指導した。こんな具合だ。

人差し指と中指は必ずくっつけて軽く曲げ、親指は軽く添えろ。薬指は丸く曲げて先を軽くシャイとアーシュの境目に触れていろ。小指は力を入れずに延ばしてぶらぶらさせとけ。既に右手はまことちゃんのグワシ状態だ。その状態で薬指を中心に手首のスナップで人差し指の腹でシャイに近いとこを叩け。はい、それは、身体の構造上、無理な姿勢でありますが。かまわん。叩け。無理です。うるさい。小指がまがってるぞ。ほれ、親指が離れた。薬指が延びてきたぞ、ちゃんと曲げろ。でも指がつります。黙れ。小指をたてるな、オカマかおまえは。いかんいかん、薬指は軽く触れるだけだ。押しちゃいかん。先生、つりました。左手の手首はバヤの中心を押しながら手首を思いきり反らして指先を曲げ、コブラの様に指先で打面を叩くのだ。それも人間工学的に無理な動作であります。知ったことか。ほーれ、こうするのだ。ぶらららららららどいどいぱきーん、しゅびしゅびぶるるる○×△◇…あの、指が見えないんでありますが。そうだ、感電したように速く動かすのだ。ちがう、ちがう。サムの一拍目のときゃ人差し指はチャンティーだ。そんなに人差し指をまっすぐにするんぢゃない。ほれ、カリはタリの逆のパターンだ。次はトゥックラだ。いいか。トゥントゥンナナナナカッティラキルターヌターゲーティラキトゥタクディラディラキトゥタク…覚えたか?忘れました。もいちど云うぞ。ディラディラキルタク…先生、くちもつってきましたが。お前も減らず口だけは達者だな。いいか良く聞け。チャックラダールテハイにおいては3回繰り返されるパターンの中にテハイが3回ずつ計9回現われる。しかしジャマ部分の半端な数により1回ごとにテハイの入り口とビートの頭がだんだんずれてきて、しかも3回めのリピートの3回めのテハイの終わりが正しいビートの頭と重ならようにならんといかん。だから、2回目と3回目のサムから逆算してそこからボウルとダムのフレーズを決め、それによりジャマの数がビビンバでキムチとナムルを付け加えることにより…

てな調子で初日にして私は自分の甘さを深く反省し、2週間のはずのリシュケシュは、ガンガ対岸の聖地に訪れる巡礼者や観光客を横目にしながらも一度も河を渡ること無く、以後半年タブラ漬け(なんか美味そう!)の毎日を過ごす場所となるのである。「綿密なる良家的印度各地訪問予定表」は焚火の火付け用に消えた。

アシュラムの朝は4時半に始まる。まだ暗い中での約1時間の瞑想が終わると、皆がおもいおもいの音程でムーンと唸る。瞑想と寝不足により、セム、ハム、モンゴル等の異なる頭蓋骨達に奇妙な共鳴現象が起き、息のかぎり続くハミングの大合唱は複雑なうなりを伴なったハーモニーとなり、少しずつ明るさを増して甘ったるくなろうとするインドの朝の空気に喝を入れようと響き渡る。

呼吸法とアサナ(あの「ヨガ」のイカニモな格好をする体操!)を終えて7時に朝食。橋の手前の茶店で供する50パイサ(1/2ルピー約15円)のカレーよりもはるかに貧弱な中味で薄味のサブジー(おかず)と2枚の薄いチャパティー。ところがこのヨガニケタンの食事は、根菜と塩、チリを殆ど使っていないにもかかわらず、慣れてくると、以後のどこで食べたインド料理よりもずっとうまかったのである。隣のシヴァナンダに住む外国人達は、メシが辛いだけでまずいとしきりにぼやいていたが、ヨガニケタンの質素なメシは最高だった。

昼飯までの時間は、ヒンディー語で行われる教義のレクチャーをパスして(外国人修行者はおおめにみられてた)ガンガの渡し場のチャイ店でばか話をして過ごすか、部屋でタブラを叩く。午後は1時から3時がウッタム先生のレッスン。部屋に帰って晩飯までタブラの復習をし、8時からは終わりなしでウッタム先生の特別レッスン。日曜はお休み、という超ハード・スケジュールであった。

この調子で年の瀬も押しつまって来たころ、南インドにあるらしいニケタンの総本山から、グル代行のばあさまがやってきた。このばあさま、ヒンディーのクラスに参加しない(出来ない)外国人に対して文句を言い出した。そのとばっちりで、日がな一日太鼓を叩いている変な日本人が、スケープゴートとなってアシュラムを追い出されることになった。ウッタム先生からは、1日に8時間は練習しろと云われているのだが、朝のヨーガのクラスを受けているとせいぜい6時間くらいしか練習できない。
俺は構わないんだが、あのばさまはうるさいんだ、とすまなさそうに言い訳するマネージャーに一応文句をつけて幾許かのデポジットを返金させ、私はうまかった食事に未練を残しつつ、ニケタンを去った。明日は元旦だというのによ!

つづく


Back to index